ミシガンの星空を見る

年に一度七夕の日に、織姫と彦星が渡って会うという天の川。しかし、最近空を見上げても、天の川を見ることはなかなか難しい。子どもの頃はもっと見えていたと思うのだが。なぜ見えなくなったのか、どこに行ったら見えるのか、今回はミシガンの星空事情を調べてみることにした。

星の見える夜空を探す

 月が出ている夜に星が見えにくいことはご存知だろう。星をたくさん見るためには真っ暗な夜空が必要だ。ところが最近先進国では夜間の人工的な灯りの影響で夜空が明るくなり、月が出ていなくても星空の観察が難しくなって来ている。実にアメリカ人の三分の二が、天の川が見られない地域に住んでいるという。
 どの程度明るくなっているかはDark Site Finder (darksitefinder.com)というウェブサイトで確認できる。黄色や赤などで夜空の明るさが示されるが、私たちが住むアメリカでは中西部から東は特に明るい。西ヨーロッパ、インド、中国にも明るい所が多く、国土が小さい韓国や日本はほとんど黄色や赤で覆われている。
 ミシガン州を見てみると、ミトンの形の半島の南半分はほぼ黄色か赤、半島北部でも暗い部分は限られる。アッパーペニンシュラはさすがにグレー色のdark siteが多い。近くで安全に星空観察ができる場所を探すのは、容易なことではない。
 明るさだけの問題ではなく、空気がきれいなこと、湿度が少ないことも大切な条件。寒さを厭わなければ、冬の星空観察が一番だ。

星空観察体験記 - Headlands International Dark Sky Park

7月29日、ミシガンの星空観察スポットとして
定評のある「Headlands International Dark Sky
Park」に出かけた。Mckinaw Cityのすぐ西の湖岸に
ある公園で、24時間オープンしており入場無料。
夜通し滞在できるが、ここでのキャンプは禁止。
デトロイト郊外からは車で4時間半くらいだ。

1) 明るいうちに下見

 星が見られるのは日没後1時間くらいからだが、照明を最低限に押さえている所なのでかなり暗いと聞き、明るいうちに到着して下見をした。公園の入口から林を抜け湖岸のDark Sky Viewing Area の駐車場に着くと、駐車スペースに矢印が描いてある。これは駐車する車の向きを指定するもの。暗さを保つため湖岸にヘッドライトを向けないように気遣わなくてはならない。駐車場の先の湖岸には今年6月に完成したばかりのイベントセンターがある。Observatory(天文台)を備えた立派な建物だが、イベントの時以外一般には開放されていない。ただし、天文台の下にあるトイレは24時間開放されていて有り難い。このイベントセンターの前には幅の広い階段状のViewing Spotがあり、暗くなると寝袋や毛布を持った人たちが寝転がって星空を見ていた。
 600エーカーの広さがあるこの公園では、整備されたviewing spot だけでなく、湖岸に沿ってどこでも星空を眺められる。ただ、遊歩道は暗闇ではわかりにくいので、明るいうちに下見してお気に入りの場所を見つけるのがお勧め。暗くなると駐車場のスペースがなくなるほど多くの人が訪れ、観察スポットを確保するのは容易ではない。

2)寝転がって星を見る

 今回私は携帯用の椅子を持参して星空を観察したが、座った状態で何時間も空を見上げるのは快適ではなかった。周りを見ると、多くの人が寝袋を持参して寝転んだ状態で観察していた。これには納得。7月でもミシガンの夜は冷え込む。絶対に寝袋がお勧めである。
 私が夜空を見上げていた時間は午後10時から午前1時までの3時間。その間上弦の月が沈み、流れ星や人工衛星が見え、月が沈んだ真夜中すぎには念願の天の川を見ることができた。
 土星と木星は月が出ていても見ることができる。目が慣れてくると南の空には赤く光るアンタレスを抱くさそり座、真上には白鳥座のデネブ、わし座のアルタイル(牽牛星)、そしてこと座のベガ(織女星)が描く夏の大三角がはっきりと見える。北極星の周りの北斗七星やカシオペア座が時間とともに動いているのも確認できた。他にも本当に久しぶりにたくさんの星が見えた。こうなると星座についてもっと知りたくなる。次回は勉強してから臨まなくては。
 ただ空を見ているだけの3時間は長いようだが、退屈することは無かった。ここはオーロラのViewing Spotでもある。特に秋分の日、春分の日あたりにチャンスが多いとか。次回はその季節に訪れたい。

3)星空観察の必需品

今回の星空観察で必要だと思ったものをリストアップしておく。

  • 懐中電灯
    赤色灯が必須。普通の青白色の灯りは眩しすぎて他の観察者に迷惑。前方ではなく、下を向けて足元を照らすように努めたい。赤色灯が無ければ、赤のセロファンや布で覆っておく。
  • 星座早見盤
    星座が分かると観察は何倍も楽しくなる。ただし、暗闇では確認しにくいので明るいうちにある程度頭に入れておくとよい。
  • 防寒着/寝袋
    夜何時間もじっとしていると寒くなる。防寒着は夏でも必要。寝転んで見るために寝袋や敷物、毛布も欲しい。
  • 飲み物/食べ物
    じっとしていてもお腹はすく。温かい飲み物とスナックは用意したい。ただしトイレが近くなるのでコーヒーはお勧めしない。
  • 望遠鏡/カメラ
    興味があれば

ミシガンの星空観察スポット

 Sunday Free Press紙(2017年3月5日版)によると、ミシガンには「Dark Sky」を確保している公園が7箇所あるという。人工的な光の影響をあまり受けていないところだ。1以外はキャンプが可能。星を見るために野外で一泊というのはいかがだろう。

1. Headlands International Dark Sky Park
http://www.midarkskypark.org/
2. Wilderness State Park
3. Thompson’s Harbor State Park
4. Rockport State Park
5. Negwegon State Park
6. Port Crescent State Park
7. Lake Hudson State Park
2~7はhttp://www.michigan.gov/dnr

もっと近場で星空観察をしたいなら、Ann Arborの西にあるWaterloo Recreation Area(State park passportが必要)がお勧め。湖岸のキャンプ場に泊まっての星空観察を楽しめる。

プラネタリウム

 もっと手軽に星空を見たい人はプラネタリウムに行ってみては。英語ではあるが子どもにも分かるよ
うに星の説明をしてくれる。天気を気にする必要がないのも嬉しい。
 今回私が訪れたのは、有名な私立校Cranbrook Schoolsの敷地内にあるCranbrook Institute of ScienceのAcheson Planetarium。ここは博物館の一部になっており、プラネタリウムを見るためには博物館の入場料(大人$13)の他にプラネタリウムのチケット($5)が必要だ。ただし金・土曜の5時以降なら入場料は半額になる。

 私は金曜夜8時から45分間のプログラム「Michigan Sky Tonight」に参加したが、子ども連れやカップルなど幅広い年齢層の人々が20人くらい来ていた。部屋自体もさほど大きくなく、アットホームな雰囲気で星空を楽しめた。ただ、椅子も快適なのでつい眠ってしまうことも。
 プラネタリウムが終わった後は、 同じ建物にあるObservatory(天文台)に足を運んでみよう。ここでは学術調査用の本格的な天体望遠鏡で星や太陽を見ることができ、専門のスタッフが質問に答えてくれる。金・土曜の7:30~10:00(daylightsaving中は8:30~10:00)オープン。博物館の入場料のみで体験できる。ただし、夏の間は10時でも明るいため、行くなら冬がお勧めだ。月に一度日中に太陽の観測会もある。詳しくは下記ウェブサイトをチェックしてほしい。
https://science.cranbrook.edu/explore/planetarium

光害 (Light Pollution)

 光害(こうがい/ひかりがい)という言葉をご存知だろうか。不適切な照明によりもたらされる自然環境や天体観測への悪影響のことだ。私は天の川が見られなくなった原因を探る中でこの言葉に出会ったが、この光害が、動植物だけでなく人体にも悪影響をもたらしていると知って驚いた。
 月や星の光を頼りに移動する渡り鳥が人工光に惑わされ渡れなくなったり、蛍など夜行性の昆虫の活動が阻害されている。人間も例外ではない。スマホやパソコン等の青白い光は、体内時計を司るホルモンであるメラトニンの生成を妨げ、睡眠障害を引き起こす。さらに乳がんや糖尿病、鬱病などにも関係しているとの報告がある。
 生命が誕生して以来、24時間の中で昼と夜が繰り返されてきた。そのリズムがここ100年ほどの間に急激に変化して来ている。その急激な変化が生物に影響するのは当然だろう。人工光が夜間の経済活動を可能にし先進国を発展させてきた。だが、それには弊害があることを私たちは気づき始めている。今さら電球が発明される前の暗闇を取り戻すことは不可能だが、不必要な照明、スマホやパソコンの長時間使用を減らすなど、光害対策を考えなくてはならない。
 太古の昔から人類は星により方角を知り、農作業の適切な時期を知った。星はただ美しいだけでなく、生活に密着したものだった。星が身近でなくなった時、私たちは大切なものを見失ったのかもしれない。今回、星に興味を持ったことで、星からたくさんのことを学ぶことができた。これからはもっと夜空を仰ぐようにしよう。

KANON


参考ウェブサイト
http://www.darksky.org/
https://ja.wikipedia.org/wiki/光害
https://www.env.go.jp/air/life/m-syomei/04.pdf
参考文献
Find the Constellations (H.A.Rey) 児童図書