The Richard & Helen DeVos Japanese Garden in Grand Rapids

約80年前にグランドラピッズ郊外に創立され、ミシガン州を中心に220以上の店舗を有する大型スーパーマーケットチェーンのマイヤー。このマイヤーの創立者Frederik Meijer氏が1995年にグランドラピッズに造った広大な公園Frederick Meijer Garden & Sculpture Parkの中に日本庭園The Richard & Helen Devos Japanese Gardenが増設され昨年6月にオープンした。浄水器で知られるアムウェイAmwayの創立者の一人であるRichard DeVos夫妻が設立に貢献したことからこの名前が付けられたとか。今回は初めての春を迎えたこの日本庭園を訪ねてみた。

芸術的な癒しのデザイン

日本文化に興味があったマイヤー夫妻からの提言に始まり、4年以上の年月をかけて北米最大級とも言われる8エーカー(約3.2ヘクタール)の本格的な日本庭園が完成した。わびさびをも意識した伝統的な庭園の中にいくつかの現代彫刻を展示しアメリカ的なテイストを添えているのが特徴だ。設計は海外では著名な栗栖宝一(Hoichi Kurisu)氏によるもので、彼は場所や人、目的に適い、特に人間の精神的、肉体的回復を助ける自然の力を引き出すようなデザインを心がけていると紹介されている。北米では人気のPortland Japanese Garden (Oregon)やAnderson Gardens (Rockford, IL)なども設計している。西洋の左右対称の幾何学的なデザインとは対照的に池の周りにくねった小道が造られる日本庭園は、岩、水、植物を三大要素として自然を模倣するように造られる芸術品だとも言われる。

桜並木 Cherry Tree Promenade

開花時期や花の色が異なる桜が小さい池を囲むように並んでいるのがまず目に入る。青空を背景にピンクの濃淡が醸し出す優美な春の景色を多くのアメリカ人がカメラに収めていた。池に傾くように植えられた松も日本ならではのもの。帰り際、小さな錦鯉が姿を見せさらに彩りを添えてくれた。

詩が刻まれた岩 Jenny Holzer Sculpture Environment.

ジェニー・ホルツァー氏はワードアートを得意とするアーティストで、この庭園の構成要素や自然の神秘などに関する俳句や詩を慎重に選び、その英訳を岩に刻んでいる。芭蕉や撫村など古典から多田智満子の現代詩までバラエティが豊かで、内容に沿って庭園の絶秒なスポットに置かれているところが心憎い。

精いっぱいに咲いている桜を命の限りに眺めんとする詩に始まり、‘Calm and serene the sound of a cicada penetrates the rock’(閑さや岩にしみ入る蝉の声)はWetland Gardenの辺りに。亀の詩が池の近くにあるかと思えば、どこから出てきたのか小亀が小道をぽちぽち歩いているではないか、風流な演出に思わずにっこり。最後はMoss Gardenの‘Luck turns wait’で、ユーモラスに締めくくられている。地図では13の岩の位置が赤い点で示されているが、複数の詩が刻まれている岩もあるので、見落とさないように22の詩をじっくり味わいたい。

盆栽 Bonsai Garden

盆栽はアメリカでもbonsaiと呼ばれすっかり定着し、今や日本のおじさん達だけの趣味ではない。10数鉢のコレクションは古典的なデザインの物が多く小さな松がまるで大木のように仕立てられていた。

石庭 Zen-Style Garden

小石や岩だけで海や山の風景を表現すのが枯山水で、日本庭園の代表的な様式の一つだ。そのシンプルな美しさに魅了される人も多い。門をくぐると、禅寺でよく造られたというだけに俗世から隔離された宗教的な静寂がある。大小9個の岩の周り一面に小石が敷き詰められ、背後は白い壁、庭との境は瓦で仕切られている。石のベンチで瞑想すれば大きな宇宙の力を感じられそうな気分になる。

茶室 Teahouse

この日、茶室は公開されていなかったので中を見ることはできなかったが、マイヤー夫人がお茶を好まれるだけあって、茶庭だけでなく呈茶の順番を待つ待合まで備えた本格的なもので庭のシンボル的存在になっている。
この茶室、四阿(しあ)(あずまや)、太鼓橋は日本で造った後に解体しこちらへ輸送後再び組み立てたというから、相当な本物志向で日本人の職人技が活かされている貴重な作品だ。四阿は杉、檜、竹などで造られているそうだ。正門をくぐった時にも何とも言えない懐かしい木の香りに出会い安らぎを感じた。

築山 Viewing Hill

さほど高さはないが、くねくねと頂上まで登って見下ろすと大きな池の周囲を囲む緑、中央に位置する島、岬、小石で綺麗に埋め尽くされたビーチ等の全容が一望できる。Double Play Goldという品種のこでまりが植えられていて、夏に小さいピンクの花が咲く。池を掘った土で築山を造るのも造園の一技法らしい。

八つ橋 Zig-Zag Bridge

八つ橋と言えば京都のお菓子を連想してしまうが、池や湿地帯などにジグザグに架けられた橋のことも八つ橋と言うらしく初夏にはこの沼地にJapanese Irisが花を咲かせる。

彫刻 Masayuki Koorida Sculpture Environment

5つの御影石の組み合わせでタイトルExistenceにぴったり合った重厚な存在感を表現し、和の雰囲気を邪魔することなく調和のとれた美しさを奏でていた。園内には純和風で定番の石灯籠や手水鉢も置かれていたが、現代彫刻との融合は和モダンの先を行く新鮮な試みだ。

滝 Waterfall

園内には大きさの異なる滝が合わせて4つある。北滝(North Waterfall)と南滝(South Waterfall)は一対の雄滝、雌滝になっていて、日本によくある夫婦滝に習ったようで、そういったこだわりが隠されていて奥深い。雄滝は中央に大きな岩があり水の音も力強い。雌滝には5段になった滝を見守るようにツツジが植えられ、水は薄い膜となって優雅に落ちる。なんとなく感じる水の匂い、滝の匂い、これは湿度の高い蒸し暑い日だったせいだろうか。雌滝の下に架けられた橋は木製で、雄滝の下は石、西滝(West Waterfall)の近くの石橋は御影石(granite)製と、それぞれの場所に合わせて素材にも凝っている。

ししおとし

水を水鉢に導くししおとしが目立たない低木の間に仕組まれていて、多くの人の注目を集めていた。ちょろちょろ、こぽん、と蒸し暑い夏に涼をもたらすししおとし、くり抜いた竹から静かに落ちる水の音、竹が上下に動く姿には風情がある。筧は他にもあったが、竹の代わりにメタルが使われていただけに、本物の竹の優しさが際立った。

苔 Moss Garden

「所変われば、、、」でアメリカでは取り除かれてしまうという苔も日本では庭に趣を添える大切な要素。まだ生まれたての苔だが、木々や飛び石の間などにしっかりと育っていた。根が無く葉から水や養分を吸収する植物で、栽培するのは難しく時間をかけた自然の営みで育まれるというから、厚く育った苔が歴史を意味するのも肯ける。

主な植物

植物はどのように植え育て、手入れするかが重要なので、ここでは原産地にこだわらず米国内で調達した物を用いているそうだ。いわゆる日本のもみじ(Acer palmatum)、松、つつじなど園内のいたる所にある。春に白い花が咲く雪柳は最近では日本でも人気だが、元々は北米原産らしい。竹もミシガンで越冬できる品種があるようで、茶室、八つ橋などの近くにあり、竹垣としても使われている。数年後、北滝と南滝の間にある藤棚に花が一面に垂れさがるのが待ち遠しい。その他、アヤメ、アジサイ、菊、、、など多種多様な植物が季節毎に楽しめる。


講演-Japanese Gardens Here and There: Essences and Evolutions

4月26日、カリフォルニア州立大学教授でアジア美術史を教えるKendall Brown氏の講演がマイヤーガーデンのホールで行われた。会場は200名以上の人で溢れ、日本庭園に対する関心の高さに驚かされた。北米には250以上の日本庭園があるらしいが、Brown氏は「Quiet Beauty」という本の中で、26の庭園の美しさを紹介している。日本庭園は19世紀末から20世紀初めにかけて美術品と共に盛んにアメリカに紹介されるようになった。初めは神社の鳥居があったり、また、商業的な意味合いが強く茶室に土産物を置いたりレストランがあったり、という時代もあったようだが、戦後は次第に本格的な日本庭園が登場し、最近では日本食と共にブームになっている。北米に造られた日本庭園の変化を通して日本がアメリカ人にどのように映っていたか、また逆に日本がどのように世界に進出しようとしていたか、その変遷が分かるという。


マイヤーの日本庭園は日本の美意識に基づいて熟慮されたたくさんの要素を含み、草木を愛で自然を崇拝する日本人の心にも迫る本格的なものだったが、そこにアメリカ的な物を綯い交ぜた新しいスタイルの庭園だとも言える。今回は米国内の日本庭園を通して日本の美意識を客観的に見直す良い機会になった。

愛子