Belle Isle その歴史と今

 デトロイトのダウンタウンに面し、カナダとの国境を流れるDetroit River に浮かぶ島Belle Isle。桜の花見ができる公園として日本人には馴染みがあるが、デトロイトが荒廃するにつれ、寂れてしまった印象が強い。しかし、2014年、ミシガン州がデトロイト市からこの島を借り上げState Parkにしてから管理が行き届くようになり、再び近郊の住人の憩いの場として活気を取り戻しつつある。

 そこで今回、デトロイト市民の社交の場、リクリエーションの場として100年以上の歴史を持つBelle Isleの足跡をたどり、その現在の姿とお勧めスポットを紹介したい。

Belle Isle の歴史

公園設立まで

 開拓者が入ってくる前、この島は「Swan Island」または「Rattlesnake Island」と呼ばれていた。その名の通りたくさんの Rattlesnake(ガラガラヘビ)が棲んでいたと言われている。1700年代、フランス人の入植者がコヨーテなどから家畜を守るためにこの島に入り、主に豚を飼育したという。豚はガラガラヘビを放逐するのに一役買ったらしい。その後、島は「Hog(豚)Island」と名前を変えた。

 Hog Island は、1879年デトロイト市に売却され、この時から「Belle Isle」と呼ばれるようになった。名前の由来はフランス語で「美しい」を意味する「Belle」から名付けられたとも、当時の州知事の娘「Isabelle」の愛称から取ったとも言われている。ともかく、当時憧れだったパリの都市公園をイメージした公園作りが始まることとなった。

Belle Isle 公園全盛期

 Belle Isle 公園の設計は、ニューヨークのセントラルパークの設計で有名なFrederic Law Olmstead に依頼された。ちなみにBelle Isleの広さは約980エーカーで、セントラルパークの840エーカーより一回り大きい。島を周遊する道路や、運河、ラグーン(潟)が作られた後、1904年にはデトロイトの著名な建築家Albert Kahn 設計によるAquarium(水族館)とConservatory(温室)が完成し、大勢の人々が押し寄せた。他にもCasino(集会場、ギャンブルはしない)、動物園、ゴルフ場などが次々に作られ、裕福な人々が、夏には運河でのボート遊び、ピクニック、ビーチでの水浴び、冬にはアイススケート場で楽しんだ。1923年にはコンクリート製の橋(McArthur Bridge)が、1925年には白大理石で作られたJames Scott Memorial fountainも完成している。

Casino は今でもイベント会場とpdf して使われている。
Casino は今でもイベント会場とpdf して使われている。
Aquarium 正面入口
Aquarium 正面入口

Belle Isle 公園衰退期

大恐慌を乗り越え、第二次世界大戦中には硫黄島等への上陸作戦の演習が行なわれるなど、戦争中であっても存在意義を失うことのなかったBelle Isleだが、1967年のデトロイト暴動以降、市内の富裕層が郊外に移り住むようになると、訪れる人が減少し次第に荒廃し始めた。2002年には動物園が、2005年には水
族館も閉鎖された。動物園は今も廃墟のまま残されている。

State Parkとしての再出発

 2013年のデトロイト市財政破綻後、 Belle Isle は30年リースでミシガン州に借り上げられ、2014年に102番目のState Parkとなった。State Parkとして管理されることで、施設や環境が整備されてきている。これに先駆け、2012年には保護団体(Belle Isle Conservancy)により水族館が再開されている。

Belle Isleに行こう

 アメリカとカナダが同時に見渡せる最高のロケーションにある Belle Isleは、デトロイトの観光名所でもある貴重な公園だ。夏はたくさんのアクティビティが楽しめるのでお勧め。サイクリング、ジョギング、バーベキュー、バードウォッチング、釣り、カヤック、ビーチでの水遊び、ベンチでのんびり川を行く船を眺めるもよし。水族館や温室、Nature Zoo、Dossin Great Lakes Museumなど見るべき所も
盛りだくさん。State Park の年間パス(車1台 $11)さえあれば、ほとんど無料で入場できるのも嬉しい。Giant Slideのみ有料(1回 $1 )。

 

お勧めスポット

Belle Isle Aquarium(水族館)

開館:土・日曜 10時~4時
 アメリカで最古の公共水族館。最近の大規模な水族館に比べればかなり小規模だが、120年の歴史を感じさせるレトロな雰囲気がいい。壁から丸天井を覆うタイルの、海底を思わせる淡い緑色が印象的。 Albert Kahn設計
の水槽は、壁にかけられた絵のようにどれも目の高さにある。水族館の地下水槽には冬の間錦鯉たちが越冬している。5月になると隣のConservatoryのLily Gardenの池に放たれ、秋にはまた地下水槽に戻るそうだ。

Anna Scripps Whitcomb Conservatory(温室)

開館:水曜~日曜 10時~5時
 Belle Isleを象徴する美しい温室は、水族館と同様Albert Kahnの設計。1904年の開館以来ずっとオープンしている全米最古のConservatory。一番高いドームはPalm House。見上げる高さの椰子の木が見事だ。他にもCactus House(サボテン類)、TropicalHouse(フルーツ)、Fernery (シダ類)、ShowHouse(季節の花)がある。

James Scott Memorial Fountain

噴水時間:6/11- 9/20 10時~9時
 島の西部にあり、白大理石とデトロイトのPewabicタイルで作られた美しい噴水。この近くのラグーンの周りに豊田市から寄贈された桜が植えられている。今年その半分ほどが新しく植え替えられていたが、この噴水の近くの桜は花見を楽しめる大きさに育っている。見頃は4月末ぐらい。6月にはこの噴水の周囲でDetroit Belle Isle Grand Prixが、8月にはArt Fairが開催される。

Dossin Great Lakes Museum

開館:土・日曜 11時~4時
 五大湖の300年に渡る水運の歴史を見せる博物館。デトロイトが繁栄していた頃、物流で大きな役割を果たした五大湖について知ることができて興味深い。当時の船の操舵室が博物館の一部になっていて、ガイドによる説明も聞ける。

Nature zoo

開館:水曜~日曜 10時~5時
 蛙や亀、蛇などの小動物中心の小さな動物園。窓越しにバードフィーダーに集まる野鳥も見られる。19世紀にフランスから連れて来られた鹿の子孫が保護されていて、一日に3回その鹿たちに餌をやることができる(11時、1時、3時)。

Sunset Point

島の西端にあるView Point。ダウンタウンのルネサンスセンター、アンバサダーブリッジ、カナダのウィンザーが一望できる。突端にあるベンチは特等席だ。新しいバーベキューグリルやピクニックテーブルが完備されているので、お天気のいい日にはここでのピクニックがお勧め。

Detroit Boat House

McArthur Bridgeのすぐ東側にある。普段は閉まっているが、漕艇の練習や試合がある時にはその様子を見られる。

Detroit Yatcht Club

200年以上の歴史を誇る全米でも屈指のヨットクラブ。プライベートなので中には入れないが、道路から豪華ヨットが見られることも。

Beach

McArthur Bridgeを眺めながらの水遊びは絵になる。なかなかの撮影ポイントだ。

Nancy Brown Peace Carillon

1940年にConsevatory の近くに建てられた時計台。30分毎に美しい鐘の音を響かせている。


 Belle Isle の話をした時、70歳代のアメリカ人がつぶやいた。「私が小さい頃、夏の寝苦しい夜は家族でBelle Isle に涼みに行ったものよ」と。そこには人々に愛された古き良き時代のBelle Isle の姿が垣間見える。その後荒廃し、今再び蘇ろうとしているが、道はまだ半ば。荒れたまま放置されている所があるのは事実だ。しかし、人々がその存在を忘れず少しでも足を運ぶことで、 Belle Isle は輝きを取り戻して行くと思う。自然だけでなく、その歴史が感じられるこの小さな島を是非訪れてほしい。

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