地球温暖化対策の一環として2014年6月クリーンパワープランが米国環境保護庁(EIA)から発表され、翌2015年8月3日にオバマ大統領によりその最終版が発表された。それによると、2030年までに発電所からのCO2排出量を2005年比で32%削減、二酸化硫黄の排出量を90%、窒素酸化物の排出量を72%削減するとしている。また、石炭火力発電所によるCO2排出が温暖化問題の最大の要因であるとして、石炭火力発電所へのCO2排出規制を電力会社や各州に課すことが、未来のために不可欠だとし、有害化学物質規制とクリーンパワープランの環境規制が、米国民の健康を守り、米国の経済・雇用の増加に結び付くとしている。目標達成の方法として、石炭火力から天然ガス火力へのシフト、既存発電技術の効率向上、省エネ技術の導入による促進など共に、再生可能エネルギー利用拡大を大きく掲げている。ならば、ミシガンのエネルギー事情はどうなっているのかと関心を持ち、クリーンパワープランも含め具体的に調べてみることにした。
1. ミシガンの現況を知る
ミシガンはその人口の規模、北方に位置する気候、工業部門の存在からエネルギー消費量が大きい。また、自動車関連工業をはじめとする種々の製造業においても多大なエネルギーが必要である。電力供給量を見てみると石炭が多いが、それでも次のページの円グラフにあるように以前に比べて格段に減少していることが分かる。そして同時に、天然ガスの比重の伸びが実感できる。
【ミシガン州】
人口 990万人(US 8位3%)
世帯数:453万(US3%)
企業数:22万(US3%)
総生産:368.4億ドル (US12位)
【ミシガンのエネルギー消費量】
電力: 104.8TW(US3%)
石炭:30,700TW(US3%)
天然ガス:762Bcf (3%)
ガソリン:99,800Mbarrels(3%)
留出燃料 26,300 Mbarrels (2%)
【ミシガンのエネルギー消費】(部門別)
電気 39.2%
交通運輸 27.5%
工業 21.8%
住宅・商業施設 11.5%
【ミシガンのエネルギー供給量】
総供給電力 108.2TW (US total 3%)
石炭:53.1TW (49%)
石油 0.3TWh (1% less)
天然ガス:21.7Twh (20%)
原子力: 28.0Twh (26%)
水力:0.4Twh (1%less)
他: 1.1Twh (1%)
【ミシガンの再生可能エネルギー供給源】
風力 61%
水力 15%
バイオマス:13%
ごみ埋め立てガス:6%
太陽光発電燃料 :1%
(数値は2014年U.S.DOE資料参考)
2.クリーンパワープランへの反応、保留から推奨へ
クリーンパワープランにおいてミシガンに課せられたCO2削減値は31%である(図表1参照)。燃料別の二酸化炭素他、有害物質の排出量を見てみると、天然ガスは石炭の半分の排出量である。このことからも石炭から天然ガスにエネルギー源が移行していくのは当然であるといえる。2009年時点ではミシガンの電力供給減は石炭が66%、2015年にはクリーンパワープランが無い中でも30%減の46.4%となっている。これは天然ガスのCO2排出量よるものだけでなく、採掘技術の革新でそのコストが大幅に下がったことにもよる。
クリーンパワープランは当初2016年9月までに各州個別の達成計画の提出を要求し、それがない場合には政府が主導する計画を遵守することとしていた。しかし急速かつ極端に石炭発電を抑えることが必須のプランに、高コストであると抵抗する勢力による法的な訴えにより係争中で、2016年2月国による実施は最高裁より保留とされた。それに従いミシガンでもスナイダー知事がクリーンパワープランへ従うことを一時中断とした。しかしながら、2016年9月末にミシガン州エネルギー局が発表したクリーンパワープランに関する2種類の考察の結果で、クリーンパワープランは実施されるべきで、それは低いコストで実施できるであろうと結論づけている。その際ミシガンが目標である排出量値を達成するには省エネ、即ちエネルギー効率を改善することが一番安価でありかつ一番インパクトがあるとしている。
3.エネルギー(電力)源についての考察
1)天然ガス - ミシガン内発電所数61
●在来型ガス(Conventional): 従来の油田・ガス田から生産されるガス。採掘所からパイプラインを通して供給されるものと、LNG(液化天然ガス)と言って一度冷却して液体状にしたものがある。米国ではパイプラインで輸送されるのが一般的であるが日本では、輸入に頼っているためLNG型でタンカーに載って運ばれて来る。有害な一酸化炭素を含まないためクリーンであるとの考え方がある。
●非在来型ガス(Unconventional):在来型ガスとは違う場所から産出されるガス。シェールガスは天然ガスの一種でシェールという頁岩という地層を水平に掘り、その地層に高圧の水を注入することで(フラッキング)層に亀裂が入りそこから出るガスをいう。近年、シェールガスブームによる供給過剰で現在価格が下がり収益がマイナスになるという問題が起きているが、それでもシェールガスの割合は今後さらに増加することがその貯蔵量からも予想される(ミシガンのアントリウムシェールは全米13位)。地層により他にタイトガス(砂岩)、メタンハイドレート(海底・永久凍土)、コールドメタン(石炭層)
が採取される。フラッキングによる地下水汚染や環境破壊のが、天然ガスの利用割合の増加に従い議論の的となっている。
2)石炭 - ミシガン内発電所数33
1970年代の石油ショック、1975年の「石炭利用拡大に関するIEA宣言」で石油火力発電所の禁止が盛り込まれた。結果、火力発電の燃料は、石炭や天然ガスに変わっていった。しかし、石炭を燃料とする火力発電は二酸化炭素を大量に排出するため地球温暖化、大気汚染の元凶とされている。2015年度、石炭の生産国、1位中国、2位米国、3位インド、4位オーストラリア。石炭の消費国国、1位中国、2位インド、3位米国、4位日本、5位ロシア。ミシガンの石炭は貨物列車でワイオミング州かモンタナ州から輸送されている。
3)原子力発電 - ミシガン内発電所数3
ミシガンでは3基が稼働中である。モンローのファーミ原子力発電所第1(1972年閉鎖)、第2(1988年始業)に続く第3の計画は2008年以降進んでいない。東日本大震災を経て原発事故の危険性、対策費用、社会的損失費用などで米国では増えていない。
4)再生可能エネルギー - ミシガン内発電所数水力58、他24
風力発電、太陽光発電、太陽熱発電、水力発電、バイオマス発電---安定的な供給とコストのバランスが課題ではあるが期待がもたれている。
バイオマス発電とカーボンニュートラル
家畜排せつ物や生ゴミ、木くずなどの動植物から生まれた再生可能な有機性資源のことをバイオマスといい、バイオマスを燃やしての発電は「カーボンニュートラル」 植物は燃やすとCO2を排出するが、成長過程では光合成により大気中のCO2を吸収するので、排出と吸収によるCO2のプラスマイナスはゼロになる。そのような炭素循環をカーボンニュートラルという。
4.ミシガンのCO2対策と計画
クリーンパワープランに従う場合、ミシガンはCO2排出量を2030年までに2005年比で
31%削減することになる。その達成のキーポイントとなるのが以下にあげるエネルギー対策である。
1)枯渇性エネルギーと再生可能エネルギー
(1) 枯渇性エネルギー:限りがあるエネルギーの資源---石油・石炭、ガス化石燃料
(2) 再生可能エネルギー:再生が可能で、資源が枯渇しない。---太陽光、太陽熱、風力、水力、バイオマス。
ミシガン州内の二大電力会社コンシューマーズエナジーとDTEエナジーは、2008年に制定されたMichigan‘s Renewable Electricity Standard(RES)に従い、両社の全電気供給量の10%にあたる電力を2015年時点いおいて風力、太陽、バイオマスもしくは水力の再生可能エネルギーで供給するということを既に達成している。
(1) 再生可能エネルギー今後の計画
●コンシューマーズエナジー
Apple Blossom Wind Park( ヒューロン郡)から電力を購入
Cross Winds Energy Park(タスコラ郡)第二期に2017年着工250億円事業である。
グランドバレー州立大学に3メガワットの「ソーラーガーデン」をオープン
ウェスタンミシガン大学に1メガワットの「ソーラーガーデン」をオープン
●DTEエナジー
Pinnebog Wind Park(ヒューロン郡)を2016年末にオープン予定。
ラビアーとデトロイトの二か所内に広がる形で50メガワットのソーラープロジェクトを計画。
(2) 枯渇性エネルギー今後の計画
●コンシューマーズ・エナジー
7か所の石炭発電所を2016年4月に閉鎖。
2023年までに閉鎖される石炭発電所に代わる天然ガス発電所を2021年までに建設。
●DTEエナジー
ミシガン内の5つある石炭発電所のうち3か所を2023年まで閉鎖する。
2021-23年の間に新方式の天然ガス発電所をチャイナタウンシップに建設する。
2)エネルギー効率の向上とエネルギー消費の抑制
ミシガン州スナイダー知事政府はコンシューマーズエナジーとDTEエナジーへ年間エネルギー売り上げ高の1.5%をエネルギー消費効率のプログラムに2025年まで回すよう希望している。
【まとめ】住宅、工業、商業、人間社会のすべての局面において必要不可欠なエネルギー。その資源、発電力はそれぞれに問題がある中で、技術革新とそして地道な努力、社会、人々の意識によって乗り越えることが必要だと認識を深めた。米国、ミシガンのこれからのエネルギー政策はまず新大統領が就任するまで保留という段階である。 (Mico☆I)
参考サイト:
U.S.Energy Information Administration,
U.S. Department of Energy
State of Michigan Energy Sector Risk Profile
Michigan Energy Overview