蝶を育てる   Monarch 幼虫から蝶になるまで

Monarchという蝶

「はらぺこあおむし」という絵本がある。⼦どもにも⼤⼈にも⼤⼈気の絵本で、そこには⼩さな卵から⽣まれたあおむしがたくさん⻝べて⼤きくなり、やがてサナギから蝶になるまでが描かれている。お話の中で知っていてもなかなか⽬にすることがない蝶の⽣態。この夏、孫たちに蝶が⽣まれるまでの実際の姿を⾒せたくて、その飼育にチャレンジした。今回観察したのはM&R22号で取り上げたMonarchという蝶である。
Monarch は秋になると北⽶⼤陸北東部からメキシコ中部の越冬地まで渡る蝶として有名。春、メキシコで越冬した個体は北⽶⼤陸南部に移動して産卵、その後世代交代を繰り返し、夏にミシガンにやって来る。夏の終わりに⽣まれた蝶は⽣殖活動をせずに、3000キロ以上も南下する北⽶⼤陸縦断の旅に出る。翅(はね)はオレンジ⾊、翅脈は黒い。翅の縁取りと胸部腹部は黒⾊で⽩い斑点がある。

幼⾍

Swamp Milkweed を⾷べる幼⾍
Swamp Milkweed を⾷べる幼⾍

 雌はMilkweedという植物だけに産卵する。MilkweedはMonarchの「Host Plant (幼⾍を育てる植物)」で、幼⾍は数種類あるMilkweedだけを⻝べて⼤きくなる。
Milkweedは毒性があり、それを⻝べる幼⾍にも毒があるので⿃などはそれを⻝べると吐き出してしまう。⽩地に⻩⾊と黒のストライプという⽬⽴つ⾊をしているのは、毒があることをアピールしているわけだ。
 雌は1箇所に1個ずつ、離れた所に合計100〜300産卵する。幼⾍の⻝欲は凄まじいので、それぞれを離しておかないとサナギになるまでの⻝べ物が⾜りなくなってしまうのだ。

 卵からふ化した幼⾍の最初の⻝べ物は、⾃分の卵の殻。その後はMilkweed。ふ化直後1mm程度の体⻑はサナギになる直前には5cm近くに達する。そこまで2週間⾜らず。毎⽇観察していると⾒る⾒る⼤きくなるのがよくわかる。まさに「はらぺこあおむし」だ。途中4回の脱⽪をするというが、脱いだ殻もきれいに⻝べて証拠を残さないので気づかないことが多い。
 5cmほどに成⻑すると⻝べるのを⽌め、飼育箱の天井に移動し始める。そしてお尻から⽷を出してぶら下がり、頭部を持ち上げ「J shape(アルファベットのJの形)」と呼ばれる体勢になる。

サナギ

 J shapeになって数⽇じっとしていた幼⾍が、身体を振るわせ始め最後の脱⽪をする。中から出てきたのは薄緑⾊のサナギ。これが数時間で綺麗な若草⾊に変わる。
上部には⾦⾊の斑点があって、まるでジュエリーのように美しい。サナギになって2、3⽇は殻がまだ柔らかいので触らないように気をつけること。その後10⽇程度で⾊がだんだん黒みを帯びていき、透明になって中の蝶の姿が⾒えるようになる。ここまで来ると⽻化は近い。

サナギになって2週間程度で⽻化する。右は⽻化直前のもの。

 サナギから蝶になるのには数分しかかからず、⾒逃してしまうことが多い。私は7匹の蝶を⽻化させたが、残念ながら結局⼀度もその瞬間を⾒られなかった。⽻化した直後の蝶の翅はまだ濡れて折り畳まれている。抜け殻につかまった状態で数時間する
と翅が乾いて⼤きく広がる。半⽇以上経って⽻ばたけるようになったら放蝶できる。
 卵から蝶になるまで約⼀か⽉。旅⽴ちを⾒送る瞬間は感無量。

翅を乾かしている Monarch
翅を乾かしている Monarch

飼育のポイント

1) Milkweedを⼿に⼊れる。

 Monarchの幼⾍飼育に⽋かせないのがMilkweed。道路脇や野原に⽣育する在来植物だが、庭に植えておくといつでもすぐに採取できるので便利。Monarchだけでなく多くの蝶が蜜を吸いにくる「Nector Plant」でもあるのでButterfly Gardenになる。ミシガンにはCommonMikweedとSwamp Milkweedがあり、⼤きい園芸店で⼿に⼊る。時間がかかるが、野⽣のものから種を取り播いてもよい。

2) 幼⾍を⼿に⼊れる。

 幼⾍採取は早朝や夕⽅の涼しい時にMilkweedの葉の裏をチェックして探す。なかなか⾒つからないときは、「Brenda’s Butterfly Habitat*」で分けてくれる。ここは蝶のエキスパートBrendaさんが作った、ミシガンに棲息する蝶の飼育場で、シーズン中の⽊、⾦、⼟曜⽇に1匹1ドルで分けてもらえる。この収益は蝶の保護活動に寄付されるそうだ。

3) 飼育箱を⽤意する。

 幼⾍の数が少ない時や⼩さい時は、プラスチックの容器の底に湿らせたペーパータオルを敷き、Milkweedの葉を置いて幼⾍を⼊れる。⽬の細かいストッキングなどで蓋をするとよい。数が多い時には⼤きい飼育箱がお勧め。私は Brenda’sButterfly Habitatで折りたたみ式のものを購⼊し、⼩さいコップに⽔を⼊れラップで覆ってからMilkweedを枝ごと挿して⼀度に5匹の幼⾍を飼育した。(写真右)もちろん通販でも購⼊できる。
 飼育箱は糞の始末、Milkweedの⼊れ替えを毎⽇⾏ない、清潔に保って病気になるのを防ぐことが⼤切。

4) 天敵

 その毒性で⿃からは敬遠されるMonarchだが、Wasp(狩り蜂)やハエの仲間にとっては絶好の獲物だ。直接捕⻝されるだけでなく、幼⾍やサナギに卵を産みつけられ、⽣きながらにそれらの餌になる。 サナギになる直前の幼⾍からハエの幼⾍が出てきた時はショックだった。飼育箱に⼊っているので天敵から保護されているはずだが、どこで卵を産みつけられたかは不明。⽣き物を飼育するのは決して綺麗ごとではない。それなりの覚悟は必要だ。


「はらぺこあおむし」の世界を⾒てみたいと気軽に始めた蝶の飼育だったが、育てるうちに厳しい⾃然界の現実を知ることとなった。100個の卵のうち、蝶なれるのはわずか1、2匹だと⾔われている。私が飼育箱で⼤切に育てた幼⾍でも、13匹のうち7匹しか蝶になれなかった。しかも、細⼼の注意を払って飼育しないと、無事巣⽴った蝶たちでもウィルスに感染している可能性があるという。⾃然界では⽣き延びられない感染した個体を、⼈が飼育することで野に放ってしまう怖れがあるのだ。飼育するからには責任を持って育てなくてはと痛感した。
 苦労はしたけれど、⽣まれたばかりの蝶は本当に美しかった。最初は少々気持ち悪かった幼⾍も毎⽇観察しているうちにかわいくて仕⽅なくなった。知ることで広がる世界・・・⼦供たちには是⾮体験してほしい。

KANON

参考ウェブサイト
http://monarchwatch.org/


*Brenda’s Butterfly Habitat*

今回お世話になった蝶の飼育場。WestlandのBarson’sGreenhouseの⼀画にある。オーナーのBrendaさんは蝶のことなら何でも相談できる頼もしい⼈。オープンは6⽉第⼀⽊曜から9⽉第⼀⾦曜まで。
詳細はウェブサイトで。
http://www.butterfliesinthegarden.com/Pages/ButterflyHabitat.aspx