Grand Rapids の週末

ミシガン州でデトロイトに続いて2番目に大きい街、Grand Rapids。ミシガン湖岸のHollandから30マイルほど東の内陸に位置し、ミシガン州最大の川Grand River沿いに発展してきた街である。ビジネスが盛んで現在でもAmway、スーパーマーケットのMeijer、掃除機のBissellの本社があることで知られている。2015年に日本庭園をオープンして話題になった広大なMeijer Garden(M&R34号に記事あり)を訪れたことのある人は多いだろう。私はM&R18号の「フランク・ロイド・ライト設計のMeyer May House」取材のために訪れたことがある。私たちの住むデトロイト近郊からは車で片道2時間の距離なので日帰り旅行コースなのだが、近年エンターテインメントに力を入れ、またBeer City USAにも選ばれて話題の多いこの街を一泊してゆっくり探訪してみることにした。

Grand Rapids はどんな街?

ミシガン州第二の都市といっても、人口は20万人弱で、70万人近いデトロイトとは規模が違う。だからこそダウンタウンは歩いて回れる広さ、手入れも行き届いていて美しい。街の名前にRapids(急流)と付けられているが、現在はそれほどの急流ではない。ただ、開拓当時はかなりの暴れ川だったようだ。ちなみにGrand Riverは

Ann Arborの東にあるJacksonに源を発し、州都Lansingを経てGrand Rapidsを通り、Grand Haven でミシガン湖に流れる、ミシガン州最長最大の川だ。

 街の中心は川沿い東側で、Amway Grand Plaza、JM Marriott Grand Rapidsなどの高級ホテルが建ち、そこを中心にCivic AuditoriumやDeVos Place Convention Center、Van Andel Arena(アイスホッケー場)といったイベント会場が配されている。駐車場は完備されているが、ダウンタウンに宿泊すれば、どこも歩いて行ける距離だ。

 ダウンタウンには美術館、博物館も多い。川の東側にGrand Rapids Art Museum、Grand Rapids Children’s Museum、Urban Institute of Contemporary Arts、川の西側にはGerald R. Ford Presidential Museum、Grand Rapids Public Museumがある。どこも1、2時間あれば見られる規模で、散歩がてらに立ち寄れる。ホテルや博物館の立ち並ぶ川の両岸には遊歩道が整備され、素敵な散歩コースになっている。また毎年*Art Prizeを企画してアーティストを支援している街だけに、あちこちにpublic artが配されていて、楽しめる。

川沿いの遊歩道
川沿いの遊歩道
public art
public art


*Art Prize

 2009年から毎年行われているArt Competition。総額50万ドルの賞金が優勝者に授与されるとあって、世界中からアーティストが集まって競う。審査員だけでなく一般人も投票できる。ダウンタウンのあちこちの会場で作品が展示され、毎年50万人もの人が訪れる。今年は9月17日から10月7日まで行われる。来年から隔年で行われるため、次回は2020年開催予定。


Grand Rapids の歴史

家具セールスマンが持ち歩いた、見本のミニチュア家具の入ったトランク
家具セールスマンが持ち歩いた、見本のミニチュア家具の入ったトランク

ミシガンの多くの町がそうであるように、19世紀初めの毛皮商人の入植からGrand Rapidsの歴史は始まる。1826年に正式にGrand Rapidsの街を設立したLouis Campauもその一人だった。乱獲で毛皮用の動物が捕れなくなると、次には材木ブームが来る。19世紀半ばのことだ。河岸にあるGrand Rapidsは内陸部で伐採された材木の集積地として好都合だった。ここで手に入る良質な木材を加工して家具作りが盛んになり、やがて”Furniture City”として全米に知られるようになる。しかし20世紀半ばになると多くの家具製造会社はノースキャロライナに移っていき、現在はSteelcaseなどのオフィス家具の会社が残るぐらいだ。

 その後、製造業が衰退していくなかで登場したのがクラフトビールの醸造所。なかでも1997年創業のFounders Brewing Co.はその中心的な存在だ。2014年にはUSA Todayの読者が選ぶ全米の”Best Beer Town”に Grand Rapidsが選ばれ一躍有名になった。現在Holland やMuskegon近辺を含め80以上の醸造所がある(Grand Rapids Beer City Ale Trailで確認出来る)。

  デトロイトと同じように20世紀後半から衰退し始めたGrand Rapidsだが、ダウンタウンを上手に再開発して、ビジネスやエンターテインメント、アートの一大拠点として復活させようとしている。

週末の過ごし方in Grand Rapids

■ホテル■

 ダウンタウンを散策したいのでホテルはGrand River沿いにした。ただ、Amway Grand Plazaなどの高級ホテルは室料以外に駐車料金もかかるので却下。川の西側、橋を渡ってすぐのHoliday Inn Grand Rapids Downtownに宿泊。ここは隣にGerald R. Ford Presidential Museum、Grand Rapids Public Museumがあって便利だし、駐車料金もかからない。アニバーサリーなど特別な旅行なら高級ホテルはお勧め。雰囲気が全然違う。

■1日目■

 お昼前にGrand Rapidsに着き、車をホテルに置いてダウンタウン散策開始。古い建物も多いが、綺麗にリストアされている。まずはランチを食べにダウンタウンの南にあるDowntown Market Grand Rapidsへと30分くらい歩く。ここはモダンな造りの屋内のマーケットで、魚、肉、ベーカリー以外にお茶やスパイスの店、レストランもある。ここで食べたサーモンバーガーは絶品。

 食後ダウンタウン中心部へ戻り、Grand Rapids Art Museumへ。デトロイト美術館に比べるとかなり小規模だが、ゆっくり見られる雰囲気が嬉しい。モダンアートが多い。天気が良かったので歩き疲れて一旦ホテルに戻って休憩。ダウンタウンに泊まるメリットはここにもある。

 2時間のお昼寝で元気を取り戻し、昼間見つけておいたSan Chez Tapas Bistroでディナー。飲み物はクラフトビールのサンプラー。タパスレストランなので、前菜を何品か頼んで居酒屋気分で楽しめる。その後はすぐ近くにあるUrban Institute for Contemporary Artsを見学予定だったが、通常午後9時まで開いているはずなのに祝日前でまさかの休館日。開いていれば食後の時間を過ごすのにいい所だったのだが。

 そこで酔い覚ましに川沿いのリバーウォークへ。ところがこの日は川の水量が多く、夕方から遊歩道が閉鎖。そこで歩いていけるBreweryを探してAtwater Grand Rapidsへ。しかし、ここはデトロイトが本拠地のBreweryだった。日没までここで過ごしてまたダウンタウン中心部へ戻り、川沿いの夜景を楽しむ。高いビルは多くないが、川沿いの夜景は風情がある。この日歩いた距離7.4mi。

リストアされた建物群
リストアされた建物群
夕暮れのGrand Rapids Public Museum
夕暮れのGrand Rapids Public Museum

■2日目■

ホテルで朝食を済ませた後、チェックアウト。車はホテルの駐車場に駐めたままでOKだったので、すぐ隣のGrand Rapids Public Museumへ。ここはファミリー向けの博物館。入ってすぐ天井から吊るされたクジラの骨格標本が目を引く。川のすぐ近くのドーム部分にあるアンティークのメリーゴーラウンド(1ドルで乗れる!)、古い街並みが再現されていたりして大人でも結構楽しめる。

 引き続き、すぐ近くにあるGerald R. Ford Presidential Museumへ。Gerald R. Fordはミシガン州出身の大統領。だが、37代ニクソン大統領の副大統領が辞任した後の副大統領として就任し、ニクソンがウォーターゲート事件で辞任した後、自動的に大統領に就任したため、大統領選挙に勝利することなく就任した唯一の大統領だ。ある意味ユニークな彼の足跡を辿るこの博物館は一見の価値あり。白くモダンな建物の裏側に大統領夫妻の眠る墓がある。

 見ごたえがあったが、さすがに博物館のはしごは疲れる。今度は車で、有名なクラフトビールのBrewery、Founders Brewing Co.へ行って遅い昼食。ここでももちろんビールをいただく。種類が多くどれを選んでいいか迷うほどだが、香りも苦味もコクもあって美味しい。さすがミシガンのクラフトビールの代表的存在だ。他のBreweryもそうだが、工場見学のツアーがあるのでチェックしてほしい。

  この後酔い覚ましの休憩をして帰途につく。

Gerald R. Ford Presidential Museum
Gerald R. Ford Presidential Museum
Founders Brewing Co.のバー
Founders Brewing Co.のバー

今回ダウンタウンの中心部の歩いて回れる範囲に絞っての探訪だったが、かなり中身の濃いものになった。郊外にあるFrederik Meijer Garden and Sculpture Park や Meyer May Houseを見学しようと思うととても一泊では時間が足りないほど見所満載である。それにビールはもちろん食事もアメリカにしてはかなりレベルが高かった。特に観光地というわけではないが、一度訪れてほしいミシガンの街である。

(Kanon)


参考文献:
West Michigan Almanac by Edward Hoogterp
Images of America “Grand Rapids”
参考ウェブサイト:
https://www.experiencegr.com
https://en.wikipedia.org/wiki/Grand_Rapids,_Michigan


ビール豆知識

クラフトビールって何?

 最近よく耳にするCraft Beerという言葉。これは小規模(small)で独立した(independent)醸造所が伝統的な製法(traditional)に則って作るビールのこと。大手の酒造会社に比べ、多様で個性的なビールが造られる。

ビールの原材料

ビールの原料はモルト、ホップ、酵母、水の4種類。これらには数多くの種類があるため、組み合わせ次第で多様な味わいのビールが生まれる。

モルト(麦芽) 大麦を発酵させて焙燥(ばいそう)させたもの。
 ホップ  ハーブの一種でビールに苦味や香りをつける。
酵母 発酵を行う微生物。麦芽の糖分を食べてアルコールと二酸化炭素に分解する。
軟水はラガーに、硬水はエールに向くと言われている。

ビールの種類

ビールはその発酵のさせ方で「エール(Ale)」と「ラガー(Lager)」の大きく2つに分類され、Beer Style と呼ばれる種類は100以上に上る。

分類 発酵方法 特徴
ラガービール  下面発酵(5℃前後で発酵) 低温で製造管理がしやすく大量生産が可能。  すっきりした喉ごし。5℃前後に冷やして飲むのがお勧め。
エールビール 上面発酵(20℃前後で発酵)クラフトビールのほとんどがこれ。 フルーティで豊かな香りと深い味わい。13℃前後で。

代表的なBeer Style

  • ピルスナー(ラガー)すっきりした飲み口で大手メーカーのビールのほとんどがこれ。
  • シュバルツ(ラガー)ミュンヘン発祥の黒ラガービール。ロースト麦芽の香ばしさ。
  • ペールエール(エール)イギリス発祥の代表的なエール。豊かな香りとほろ苦さ。
  • IPA(エール) India Pale Aleの略称。植民地時代インドに海上輸送するため防腐剤の役割をするホップを大量に使って作られた。香り高くコクがあり苦味が強い。
  • ヴァイツェン(エール) ドイツの白ビール。フルーティな香りで苦味があまりない。
  • ベルジャンホワイト(エール)ベルギーの白ビール。コリアンダーとオレンジの風味。
  • スタウト(エール) 「ギネス」に代表される黒ビール。香ばしくコクがあり炭酸少なめ。
  • アンバーエール(エール) 琥珀色のビール。強めの苦味とコク、香ばしい香り。