The Great Lakes state の愛称で親しまれるミシガン。その「ミシガン」がネイティブアメリカンの「大きな湖」という言葉からきていることを知っている人は多いだろう。今回はこの「大きな湖」ミシガンの名前を持つ五大湖のひとつ「ミシガン湖」についてその魅力を伝えたい。
地図から見るミシガン湖
ミシガン湖はアメリカとカナダの国境線上に存在している五大湖のひとつであるが、五大湖の中で唯一カナダとは接しておらず、アメリカ国内にのみある湖である。五大湖の中ではスペリオル湖、ヒューロン湖についで3番目に大きく、全世界でも5番目の大きさである。面積はおおよそ58000km2、九州と四国を合わせたよりも大きいといえば、その広大な様子を少しはイメージできるだろうか。
ミシガン湖はヒューロン湖とマキノー海峡でつながっており、ヒューロン湖の水は川となってエリー湖に入る。エリー湖からはナイアガラの滝を経てオンタリオ湖に入った後、セントローレンス川につながり、大西洋へと流れる。この五大湖、セントローレンス川水系は世界最大級の淡水の水系である。また一方でミシガン湖の水はシカゴ川からミシシッピ川へとつながりメキシコ湾にも流れている。実は、聖パトリックデイに緑色に染まるシカゴ川は、かつてはミシガン湖に流れ込んでいた。しかし19世紀シカゴが成長するにつれシカゴ川の下水や汚物が浄水源であったミシガン湖に流れ込み、腸チフスなど公衆衛生上問題が生じるようになった。そのため、19世紀の土木工学の偉業ともいわれる「シカゴ還流」が行われ、1900年シカゴ衛生局はシカゴ川を完全に逆流させ、現在の水路が確立されたのである。ミシガン湖の豊かな水はこうして、東のセントローレンス湾、南のメキシコ湾へと遠く流れていくのだ。
ミシガン湖の成り立ち
ミシガン湖が氷河湖であることは広く知られているが、では、いつ、どのようにミシガン湖は形成されたのだろうか。
そもそも氷河とは何か。氷河は降った雪が融けることなく万年雪となり堆積し、その重さで圧縮されることでできる巨大な氷の塊である。およそ7万年前に始まった最終氷期の中で、地球が最も寒くなったと言われる2.1万年前、地球上を氷河が覆っていた(右図グレイ部分)。ヨーロッパ、ロシアの北部全域、北アメリカではカナダ全域が氷河に覆われ、その先端は現在の五大湖のあたりまで伸びていた。氷河は重力によって少しずつ標高の低いところへと移動していくのだが、その想像を超える重さのため移動するときには地表を削りながら進む。
1万年前になると気温があがり最終氷期は終わりを迎える。氷河は退行していき、氷河から融け出た大量の水は川になって流れ海に入る。また、その水は氷河で削られくぼんだ地形にも残る。こうしてできたのが氷河湖である五大湖だ。しかし1万年前からミシガン湖が今の形であったわけではない。およそ7000年前に氷河からの水の流れが東寄りになると、ミシガン湖の水位は下がり湖底が地上に出ていた。4000年前に再び水位があがり、今のミシガン湖の姿になった。
ミシガン湖の湖底に見える人類の営み
この最終氷期、氷河が発達し海水面は最も低くなり、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸の間にベーリング陸橋が形成された。その陸橋を通って人類が北アメリカに到達したといわれている。旧石器時代と言われるこの時期、人類は狩猟生活をしていた。その人々の生活を示す遺跡がミシガン湖の湖底から見つかった。
2007年ノースウェスタンミシガン大のDr.Holleyは、湖面から120mほどの湖底に数千個の石が500mにわたって並んでいるのを発見した(右写真、円で囲った部分)。それぞれの石の大きさはサッカーボール程度から乗用車サイズまでさまざまだが、その並び方は明らかに人の手によるものであった。また、その一つの石には『マストドン』という動物の彫刻がされているのも見つかった(下の写真は彫刻部に色をつけてわかりやすくしている)。『マストドン』は北アメリカに生息していた象やマンモスに似た体長2~3メートルの哺乳類で、今から1万年ほど前に絶滅したと言われている。
この遺跡が作られたおよそ1万年前、今のミシガン湖の一部は陸地で人々の生活区域となっていた。これらの石群は儀式のために作られたという説もあるが、狩猟のための罠として使われていたのではないかという説が有力である。また、同じような遺跡はミシガン大によってヒューロン湖からも見つかっている。いずれも湖の底が当時は陸地で、そこに人々が生活していたことを示す貴重な遺跡である。
ミシガン湖と人との共存
五大湖の湖底にはおよそ6000隻の難破船が眠っているという。これもまた人類の歴史の一部と言えよう。19世紀に入ると、五大湖周辺に鉄鉱石などの天然資源が発見され、周辺にシカゴ、ミルウォーキーといった都市が発達した。五大湖は18世紀後半から20世紀にかけて地球上で最も船の往来が激しい水域だったという。しかし、水路交通の発達により、本来存在していなかった外来種が持ち込まれ生態系を破壊するといった問題もおきている。1980年代、海洋を航行する船に付着した二枚貝の一種「イガイ」(左写真)が五大湖に持ち込まれ、ミシガン湖で急激に繁殖した。ミシガン湖は他の湖よりカルシウム濃度が高いため、イガイの繁殖に快適な環境だったのだ。イガイは湖水のプランクトンを食べるため湖水の透明度があがり太陽光が深く差し込むようになった。その結果「シオグサ」という植物が大量に繁殖を始めた。「シオグサ」は死ぬと毒を出すため周辺に住む魚や鳥が死ぬといった影響が出ている。
また、1970年代、アメリカ南部の養殖池へ持ち込まれた「アジア鯉」が川へ流れ出て大繁殖を始めた。ミシシッピ川はイリノイ川を経てミシガン湖へつながっている。「アジア鯉」の侵入は元来生息していた魚類が駆逐されるだけではなく、それらを餌にしていた水鳥たちにも影響を与えるため、国は40億ドルを超える費用をかけて水中に巨大な電気バリアを建築した。しかし、2012年エリー湖で「アジア鯉」が発見され、分析の結果すでに五大湖に「アジア鯉」が生息していることが確認されたのである。
こうした外来種による生態系の破壊だけではなく、湖がもつ自己回復能力を上回る人間活動により、湖水の汚染は深刻となっている。オバマ大統領は2009年、五大湖の環境修復に向け研究基金を立ち上げ、現在、湖水の浄化活動、研究、教育・啓発活動などが行われている。
ミシガン湖を楽しむ
ミシガン湖は西から東に風が吹く。東側にあたるミシガン州側の湖岸は風でとばされたきれいな砂が集まる。また、温められた湖の水もやはり東へと運ばれるため、ミシガン州側は比較的温かい水に覆われる。そのためミシガン州側には砂浜のきれいなビーチがたくさんあり、夏場は観光客でにぎわう。右の地図はミシガン州観光局が選んだ「ビーチタウン」。
ミシガン州からだけではなく、イリノイ州、インディアナ州などからの観光客も多い。海とは違い淡水なのでべとつかず、細かい砂も乾けばさらさらと落ちるため快適だ。ミシガン湖は湖でありながら波もあるためサーフィンを楽しむこともできる。ただしサーフィンのベストシーズンは秋から冬とのこと。なお、日本と違い公共の場はアルコールが禁止されているため、ビーチでのアルコールは厳禁。ミシガン湖には犬と楽しめるビーチがいくつかあり、「ビーチタウン」もペットフレンドリー。愛犬との旅にもうってつけの場所だ。
湖に囲まれたミシガン州の灯台の数は全米一位である。ミシガン湖畔にもたくさんの魅力的な灯台がある。湖畔をドライブしながら「灯台めぐりの旅」をするのもいい。インフォメーションに立ち寄って「ミシガン湖灯台マップ」を手に入れよう。そして必ず日の入りの時間をチェックしよう。灯台へと続く桟橋で水平線に沈む夕日を眺めると、その美しさに心が洗われていく。
ゆっくりミシガン湖を楽しむ旅をぜひ。
komari